毎夜死に、毎朝生まれ変わる 木漏れ日のような毎日
この映画を楽しみに待っていました。
2023年5月、カンヌ映画祭で役所広司さんが主演男優賞を受賞したと知った時から、いつ上映されるのかなとずっと気になっていました。
ようやく昨年の年末に観ることが出来て本当に良かったです。
監督はドイツの名匠、ヴィム・ヴェンダースです。
主人公の平山は渋谷区の公衆トイレ作業員です。彼の毎日がまるでコピーのように繰り返されます。
毎朝、近所のお年寄りが掃く竹ぼうきの音で目が覚めます。
起きて布団をたたみ歯を磨き顔を洗います。作業着に着替えて携帯電話をポケットに入れ、鍵の束をジャラジャラとベルトに引っかけます。
そして自販機で缶コーヒーを買い車に乗り込みます。
車に乗りながらカセットテープで音楽を聴きます。ここだけ毎日違う音楽を聴くのですが。
映画で最初にかかるのは、アニマルズの”THE HOUSE OF THE RISING SUN”「朝日の当たる家」です。
うわー気が滅入る。いい歌なのですが、私は深夜にどん底まで落ちたい気分の時に聞きたい歌です。
そんな個人的な事はさておき、平山は自分の仕事であるトイレ掃除を淡々とこなしていきます。
仕事ぶりは丁寧で、見えない箇所も手鏡で確認していきます。
お昼はいつもの神社のベンチでサンドイッチを食べます。常連に軽く挨拶し、食後はカメラで神社の木漏れ日を写真におさめます。
日中何カ所かのトイレ掃除を行い、銭湯に行き、夜はいつもの居酒屋で軽く一杯飲み食事をすませます。
夜は本以外何も無い部屋で読書に耽り、寝落ち状態で寝ます。夢はいつもモノクロで木々のざわめきが見えます。神社の木漏れ日かもしれません。
日曜日の夜だけ美人ママさんのいるスナックに通い、密かに思いを寄せています。
古いアパートですが、部屋は片付いており余計なものはありません。余計な事はなにもせず不平不満も言いません。
うらやましい生き方だと思いました。つい悪い感情にもっていかれる時がありますが、平山はまったくそういう様子はありません。
毎夜死に、毎朝生まれ変わっているように感じました。
車の中で聞く音楽も楽しげな曲がかかっています。60年代~70年代の名曲が次々とかかります。
ある時、トイレ掃除の同僚が急に来なくなってしまい、仕方なく1人で仕事しますが、どこか担当者か何かに電話して怒りをあらわにします。
そして違う日にドアの近くで少女が立っています。
平山が仕事から帰るといきなり「おじさん!」と呼び止められます。
姪っ子でした。高圧的な母親から逃げてきた様子。数日後、アパートに運転手付きの高級車で上品な女性が降りてきます。平山の妹のようです。
この落差、一体過去に何があったのでしょうか。説明は一切ありませんので、何か大きな出来事があったとしか分かりません。
結局姪っ子は平山の「いつでも遊びにきていいから」という言葉で帰っていきますが、姪っ子は1つ逃げ場所を得たのだから良しとしましょう。
平山は目を潤ませます。姪っ子の成長を喜び、暫く会えなくなる悲しみと思いました。
また、行きつけのスナックでママさんと見知らぬ男性が抱き合っているのを目撃してしまいます。
慌てて逃げ出し川辺で酒を飲んでいると、先ほどの男が話しかけてきて「自分は元夫で病気で余命が無いことを告げにきた」と言います。
そして男は冗談を言い2人で酒を飲みながら笑い合います。
毎日同じことの繰り返しですが、時には怒ったり泣いたり笑ったりする日々が自然に表現されています。
東京のどこか片隅に真面目に、真面目に、生きている男の日々です。
平山のような生き方に憧れます。
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