「帰って来た橋本治展」に行ってきた。県立神奈川近代文学館

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6月2日で終了した「帰って来た橋本治展」に行ってきました。
場所は横浜市の県立神奈川近代文学館です。

60才以上なら、このフレーズはどこかで見たこと聞いたことがあると思います。

とめてくれるな おっかさん 背中のいちょうが泣いている 男東大どこへ行く

東京大学の第19回駒場祭(1968年・昭和43年)のポスターで、任侠映画みたいな男性の背中にいちょうの刺青が彫られています。

このキャッチコピーが全国的にヒットしました。ポスターの作者は橋本治さんです。

なんとなく聞き覚えがありましたが、作者の名前を知ったのは、私が大人になって、この方の本を読んでからです。

「橋本治(1948~2019)とは何者だったのか」を考える回顧展です。

一番最初に知ったのは「桃尻娘」です。高校2年か3年の時に読み、なんて面白い小説なんだ!と夢中になりました。
「桃尻娘」は映画化とドラマ化された青春小説で、シリーズ物になり6巻で完結しました。
私は主人公の榊原玲奈よりも脇役の醒井涼子が好きで、彼女の行く末がずっと気になっていました。
6巻が出版されたことを知らず、ずっと気になっていました。何十年も前のことですから、あらすじもぼんやりしてしまい、復刊しているようなので再度読んで完結したいです。
本の紹介で「前向きな気分で終わる」とあったので、これで安心出来そうです。

橋本治さんは大学時代にイラストレーターとして活躍しており、その原画の展示もありました。
本の表紙や挿絵、有名人の似顔絵を書いたり、伝統芸能が好きで役者絵や切り絵等も残しています。

小説の原稿もたくさん展示されています。山のように積んである原稿もあります。

とにかくこの方は色々なことをしています。

イラストレーターや作家の他、ニットのデザイン、漫画の評論、80年代の軽薄な時代のフジテレビのキャンペーンにも出演しています。
他にも本を読みましたが、これも年月が経ちぼんやりしてしまいました。

展示の中で読んだ本があるのは嬉しい気分です。それらの本は何度かの引っ越しで失ってしまいましたが、2冊だけ手元にあります。

1985年出版「親子の世紀末人生相談」と2001年出版「二十世紀」です。

「親子の世紀末人生相談」は雑誌の連載3年分をまとめた本で、目次の代わりにインデックス【索引】として、テーマごとにページが記載されています。
例えば、■女子大生的困惑(当時は女子大生ブームでした)

No.18-同じ有名女子大にいる同性の○○さんが好きなんです・・・・(六十)
N0.104-モデルをやっている女子大生ですが、どんどん性格が悪くなって行くような気がします・・・・・・・・・・・・・・・(二九八)

上に相談番号、下にページ数がかいてあり、読みたい相談の回答がすぐ引ける仕組みになっています。
私は自分に近しい人を探しては回答を読んでいました。

ちなみに、No.18に対しての回答は、「今のあなたが○○さんに好かれることはないでしょう。~(略)~誰にも相手にされないというのはつらいことですね。そうしむけているのが自分だということをどうぞお忘れなく。」
結構厳しいのですが、相談の文面がたしかにひとりよがりで気持ち悪いのです。こうはっきり書かれると、逆にすっきりします。
No.104の相談には要約すると、こう答えています。「あなたは自分自身に怒っている。あと3年とか言ってるけど、あと3ヵ月もしたら誰からも相手にされなくなる。本気で女優を目指すか、潔く諦めるか決断しなさい。」
簡単にまとめてしまいましたが、どんな相談にも丁寧に回答されて、正直で納得できるものばかりで、言葉は少しきついですが相手への優しさを感じます。
他にも■親子関係、■よく分からなくて不安な自分、■主婦的倦怠、■思春期的少女、■普通の男性、もっともっと続きます。全部で406ページあります。
もし、古本屋で見つけたら購入して、眠れない時にパラパラめくるといいかもしれません。

「二十世紀」は帯に「へんな百年だった”こんな日本”になってしまった、全てのいきさつを正しく知りたい。二十世紀を一年ずつ、百年分のコラムで大総括」と書いてあります。
実はこの本を買ったことを忘れており、たしか橋本治の本を持っていたはずと本棚を探したら出てきた本です。
この本に対して大変失礼なことをしました。お詫びにこの本をすぐ読みます。私が産まれた1962年の出来事としては、「キューバ危機」がありました。
その原因はアメリカのエゴであったと書いてありますが、その前の出来事があるので、これはやはり前のページから読まなくてはなりません。

机に本が幾冊も積んであるのですが、必ず読むので待っていてください。

「桃尻語訳 枕の草子」はNHKで番組化され、それをよく見ていました。

「春って曙よ!だんだん白くなってく山の上の空が少し明るくなって、紫っぽい雲が細くたなびいてんの!」で始まります。
当時、この番組を「分かりやすくて面白い」と知人に勧めたら、「枕の草子をあんな風に改ざんして許せない」と言われました。それぞれ好みがありますからね。
この本は着手してから完成するまで10年かかったそうです。
他にも徒然草や源氏物語や平家物語を現代語に訳しています。

橋本治さんは作家活動の他にも、ニットデザイナーとしても有名でした。テレビに出たり編み物本の出版もされています。

学生時代から編み物をしていたそうですが、この企画展でも何点も展示されていました。
セーターと一緒に型紙も展示されていましたが、前身頃と後身頃と袖に分けて方眼紙にきちんと色分けしてあり、絶対真似できないほど丁寧な仕事ぶりです。
模様は浮世絵風から大島弓子さんの「綿の国星」の主人公、あしたのジョー、沢田研二さんのストリッパーのジャケ写真、モジリアニの絵など、様々です。
型紙は写真からセルに絵を写し取り(下絵)図案化したそうです。

本当に多才です。
小説、エッセー、評論、絵画、ニットと膨大な仕事をしています。そのためきちんとした評価が得られていないのではないかと思います。

こうした回顧展が催されるということは、再び光があたってきたのだと思います。

神奈川近代文学館

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