女性が机でノートに何か書いています。女性の名前は李。脚本家です。韓国人俳優シム・ウンギョンさんが演じています。
「止まった車の後部座席で女が目を覚ます」と書くと、映画の中でその通りの映画が始まります。
「海辺の叙情」
朝、車の後部座席で目覚めると、男がその車を運転して、どこかの海辺に到着します。
彼女の名前は渚(河合優実さん)。どことなく影がある女です。
車から降りると、渚は海辺をひとりで歩き、夏の海で読書をしている夏夫(高田万作さん)と出会います。
ふたりは周辺がすっかり暗くなるまでふらふらと散策します。
翌朝は台風になり、強い雨風が窓ガラスを叩きます。昨日、明日も海に行くと言ったけど、こんな台風の日はさすがに無理でしょう。
でも渚はなぜか海に行きます。
夏夫はすでに浜辺に来ていて、屋根のあるベンチにびしょびしょになりながら座っています。
渚は水着になり海で泳ぎ出します。風が強くて波も高く、頭しか見えません。今すぐに溺れるのではないかと、私は気が気じゃありません。
続いて海に入った夏夫に「魚がいた」「あっち」と指を指して誘導します。
「そうよ、いいかんじよ」と言う、渚は普通じゃないです。この女は何者なのでしょうか。怖い女です。
この映画が大学の講義室のスクリーンで上映されています。その後、質疑の時間となり、学生の質問に答えています。
学生から感想を聞かれると、李は「私には才能がないなと思いました」と答えてしまいます。脚本家として行き詰まっているようです。
でも、でも、この映画、なんだかシュールで面白そうです。続きが気になります。
講義が終わった後、教授は「気晴らしに旅行に行ったらいい」と、声をかけます。
なかなか書けずにいた李は、教授の助言通り旅に出ます。
「ほんやら洞のべんさん」
トンネルを抜けると真っ白な雪景色に変わります。まるで川端康成の「雪国」みたいです。行った先は雪深い温泉地。
予約しないで行ったらしく、何軒も断られています。
ようやく泊まれたのは、地図からはみ出た山間部にある、今にも雪に押し潰れそうなおんぼろな茅葺きの宿でした。
客室も無く、暖房も無く、お風呂の用意も無い、はたしてこれは宿と呼べるのでしょうか。
宿の主人は囲炉裏の横の自分の布団でいびきをかき、先に寝てしまいます。ひどい宿です。
李も自分で囲炉裏端に布団を敷き、ようやく体を横にします。
宿の主人・べん造を堤真一さんが演じています。分厚くてボロボロのどてらを着て猫背に歩き、バリバリの訛りで、誰が演じているのかと思っていました。無骨だけどほんのり可愛らしさを感じます。
この宿だけ昭和時代にタイムスリップしています。
翌日の夜、べん造は李を雪の中に連れ出します。
行き先は元嫁の村。そこにある池では一匹何百万円もする鯉を養殖しています。李は悪いことに関わりたくないと言いますが、結局ついていってしまいます。
鯉を一匹盗みバケツに入れて持ち帰ります。
でもべん造の家に到着する頃にはバケツの水は凍り、鯉も凍っていたのでした。いったい何の為に行ったのか、分かりません。おまけに警察まで呼ばれる始末です。
おそらく人見知りそうな他人同士が、なぜか行動を共にする不思議さを感じます。
やがてノートにさらさらと文章を書き出します。李の表情が和らいでいます。
シム・ウンギョンさん、清潔感があり知的で、私の好きな俳優さんです。韓国映画「サニー」「怪しい彼女」でも、日本映画「新聞記者」でも、今作品でも存在が素敵でした。
韓国人である李が日本を舞台に脚本を書き、日本の雪深い温泉地を訪れるという異邦人感が不思議な味わいを醸し出してるような気がしました。
監督は「ケイコ 目を澄ませて」「夜明けのすべて」の、三宅唱監督です。
原作はつげ義春さんのマンガ「海辺の情景」「ほんやら洞のべんさん」です。
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