昨年はSNS依存症になり、せっかく買った本を何冊も積んどくだけで、ほとんど読むことが出来ませんでした。この事を反省し今年は本を沢山読むことにしました。芥川賞受賞作「ハンチバック」は噴火した火山のような衝撃作でしたが、昨年購入したこの本はどうなるのでしょうか。帯に「衝撃ふたたび」と書いてあるので、期待がふくらみます。
『オフィーリア23号』
主人公の藤井那緒は10月4日生まれの現在23才。偏頭痛に長年悩まされている大学院生です。自分をオットー・ヴァイニンガーの生まれ変わりだと言います。証拠はヴァイニンガーが拳銃自殺した日と自身の誕生日が同じ日だからです。
オットー・ヴァイニンガーとは1880年生まれのオーストリアのユダヤ系哲学「性と性格」を上梓した後、23才でピストル自殺しました。ヴァイニンガーはこう言ったそうです。
女性には存在も本質もない。女は存在しない。非在なのだ。
当時はベストセラーになりますが、性差別的かつ反ユダヤ的と批判されています。
那緒はヴァイニンガーの「」という思想を現代に甦らせて、ネット上のミソジニスト集団の経典にすることを夢みています。
万国のミソジニストよ、ヴァイニンガーに帰依せよ!
生成AIを使ってSNSで地道な布教活動を開始しています。
なぜそんな考えを持つようになったのか。
医者である父親は日常的に母親に暴力をふるい、物に当たり、兄と那緒には暴言をはいていました。
父親も祖母も子どもたちに向かって、「だから女はダメなんだ、リーダーは男に限る」というような悪口を散々口にしてきました。
那緒はそんな家庭環境で、男尊女卑的考えを植え付けられたようです。
けっこうな毒も吐きます。
友人の綾子に対しては「猛禽」、別の友人には「平均値を外れて馴れ馴れしい」、恋人の和人を「軽薄」、三島由紀夫には「コスプレ自殺」、ヴァイニンガーにも「ペンを走らせながらエレクトしているに違いない」と、容赦ないです。「コスプレ自殺」なんてずいぶんな言い方です。
那緒の恋人の和人は劇団を主宰していて、劇団活動とは別に三島由紀夫の「憂国」をリアル映像化したいと考えています。もちろんリアルなので、本番行為もあり、それを素人のアダルト動画の配信サイトで収益化したいと計画しています。
那緒は和人の依頼で「憂国」の中尉の妻麗子を演じることを承諾します。そして「オフィーリアになって狂って死のう、自我を消そう」と考えます。
シェークスピア「ハムレット」のヒロインであるオフィーリアは、ミレーの仰向けの姿で川に流されていく絵画が有名ですが、この物語のオフィーリアはジグゾーパズルの姿で「女は存在しない」のシンボルのような形で何度も登場します。
でもいざ撮影となると嘔吐してしまい、狂って自我を無くすことは出来ませんでした。
医者になった兄も、何かあると能面を被るように表情を消すすべを身につけ、生きのびてきました。
母親が祖母の振る舞いを身につけていったように、兄も父親のような言葉使いを真似していて、将来モラハラ男になることをほのめかしています。
女は存在しないとか、存在するとか、不在とか、非在とか、そんな言葉が繰り返されます。
ミソジニストと名乗りながら、フェミニズム研究会に出席したり、「平和の少女像」を見て涙を流したり、本当に本心から「女は存在しない」という思想を持っているのか、よく分かりません。
生きるって葛藤の連続です。
『女の子の背骨』
筋肉の病気を患うガゼルという名前の10才の女の子が主人公です。
ガゼルの17才の姉も同じ筋肉の病気を持っていて、もう寝たきりの状態で言葉を発することが出来ません。
入院中の姉を残して、ガゼルと両親伯父伯母とグアム旅行にでかけ、途中から父親の友人が加わわった、その1週間の物語です。
「あの拳銃を盗んで何でもいいから何かを撃ち殺したたい」
ガードマンボックスに常駐するガードマンの拳銃を双眼鏡で覗き、探偵手帳に「けんじゅうをぬすんで殺す生き物リスト」を書き込んでいます。
そんな物騒なことを考える妹に対し、姉は何一つ文句を言わない我慢強い性格です。
セキュリティゲートのガードマンに「Please show me your pistol」と話しかけ、すんでのところで父親の友人に救われます。
危ない危ない!
私は去年観た映画「ルノワール」を思い出しました。10才の女の子は時々大胆なことをします。
-おねえちゃまへ。
私が生まれる前の七年間、おねえちゃまは一人でこの家の子どもをやっていたんですよね。
それってとても大変じゃなかったですか?
こんど、一人でいるコツを私にもおしえてください。
ここの父親も怒りっぽい性格のようで、しょっちゅう夫婦喧嘩しています。姉妹は喧嘩など一度もすることなくお互いに一人ぼっちです。
ガゼルの姉に対する深い気持ちを知り、しみじみします。

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